資産管理ソフトとCAD,CAE利用可視化を比較してみました
企業のIT運営において、資産管理ソフトはもはや前提条件になっています。
PCやサーバ、インストールされているソフトウェア、ネットワーク機器を把握し、構成変更や配布、ログ管理、セキュリティ統制を行うことは、今や「やる・やらない」の議論ではありません。
一方で、近年あらためて課題として浮かび上がってきているのが、CAE・CADなどエンジニアリングソフトウェアの“利用実態”の把握です。
この2つは混同されがちですが、管理対象・目的・思想が根本的に異なるため、同じツールでカバーしようとすると無理が生じます。
*本記事では、一般的な資産管理ツールと、エンジニアリングソフトウェアの利用可視化ツールを、「目的」「設計思想」「管理対象」という観点で整理しています。特定製品の優劣を論じるものではなく、それぞれのツールが担う役割の違いを理解することを目的としています。

資産管理ソフトが担う役割(これは「できていて当然」)
資産管理ソフトの主な役割は、以下の通りです。
- PC・サーバなどのハードウェア資産台帳
- インストールされているソフトウェア資産台帳
- ネットワーク機器の管理
- 資産構成の変更管理
- ソフトウェア配布・パッチ適用
- 操作ログや画面操作の記録
- 情報漏えい対策・内部統制
これらは全社のPCを対象にしたIT統制の話であり、情報システム部門が中心となって運用されます。
重要なのは、ここに「CAEのライセンス最適化」という目的は含まれていないという点です。
ライセンス管理の思想が根本的に異なる
比較表の中で特に重要なのが、「ライセンス管理思想」の違いです。
資産管理ソフトの考え方
- 基本はインストール数基準
- 「どのPCに何が入っているか」を管理
- SAM(Software Asset Management)寄りの発想
この考え方は、Officeや業務アプリのような1ユーザー=1ライセンスの世界では非常に有効です。
CAEソフトウェアの現実
一方、CAE・CADソフトは次のような特性を持ちます。
- フローティングライセンスが中心
- 同時使用数がボトルネックになる
- 起動していない時間も占有されるケースがある
- 「入っているか」より「使われているか」が重要
つまり、インストール数を把握しても、利用実態は分からないという世界です。
資産管理ソフトでは把握が難しい領域
以下の項目は、資産管理ソフトが「不得意」もしくは設計対象外になりやすい領域です。
- 同時使用数の正確な把握
- 拒否(Denial)や待機の発生状況
- ピーク時間帯の集中度
- 最適なライセンス本数の算定
- アイドル(放置)占有の回収
これらは、端末管理の延長ではなく、エンジニアリング業務そのものの実態把握に近い領域です。
そのため、資産管理ソフトで無理に対応しようとすると、次のような運用になりがちです。
- ログをExcelに落として手作業分析
- 現場の感覚やクレーム頼り
- 「足りないから増やす」という判断
利用範囲がそもそも違う
もう一つ重要なのが、利用範囲の違いです。
- 資産管理ソフト:全社のPC・端末を対象
- CAE利用可視化:技術部門(設計・解析)に限定されることが多い
対象ユーザーも、情報システム部門と設計・CAE管理者では見たい指標がまったく異なります。
まとめ:比較すべきは「優劣」ではなく「レイヤー」
この比較が示しているのは、どちらが優れているか、ではありません。
管理レイヤー(目的)が違うという点です。
- 資産管理ソフトはIT統制の基盤
- CAE利用可視化は技術投資の最適化のための仕組み
資産管理ソフトは、あって当たり前、できていて当然。
その上で、次の問いに向き合う企業が増えてきています。
- 高額なCAEソフトが本当に使われているのか
- 同時使用がどこで詰まっているのか
- 投資判断をデータで説明できるか
この2つを同一視せず、役割を分けて考えること自体が、エンジニアリング投資を成熟させる第一歩と言えるのではないでしょうか。

