エンジニアリング分野におけるCAD/CAE/PLMなどのアプリケーションは、企業活動に欠かせない一方で、 そのコスト構造が非常に見えにくいという課題を抱えています。多くの企業では「毎年これだけ支払っている」 という感覚はあっても、それがどの領域に、どのような形で投資され、どれだけのリターンを生んでいるのか まで把握できていないケースが少なくないと感じます。
そこで今回整理してみた考え方は、エンジニアリングアプリケーションのコストを ROI(投資対効果)の視点で可視化するための、3段階の分析アプローチです。
なぜ「コスト可視化」がROI議論の出発点になるのか
ROIを議論する際に、いきなり「削減」や「最適化」を考えてしまいがちですが、その前に必要なのは 現状の正確な把握です。特にエンジニアリングアプリケーションの場合、費用は以下のように分散しています。
- 毎年必ず発生する保守料
- 設計要件や人員増加に伴う追加購入費用
- 設計系・生産系にまたがる複雑な利用構造
これらを整理しないままでは、「投資に対してどれだけの価値を生んでいるのか」を評価することはできません。 ROI視点での議論は、まずコストを正しく“見える化”することから始まるのではないでしょうか。
ステップ1:将来発生するコストにフォーカスする
最初のステップとして考えたいのは、「将来にわたって確実に発生するコスト」を明確にすることです。 具体的には、現在支払っている年間保守料と、来年度以降に発生が見込まれる保守料を正確に算出します。
- 現在支払っている年間保守料
- 来年度以降に発生が見込まれる保守料
一方で、過去に支払った初期購入費用については、すでに回収不可能なサンクコストとして扱い、 今回の分析からは一旦切り離します。これは「過去の判断を評価する」ためではなく、 「これからの投資判断を誤らない」ためです。
ROIの観点では、これから投じ続けるコストに対して、どれだけの価値を生み出しているのかが 最も重要な指標になると考えます。
ステップ2:追加購入費用の推移を把握する
次に重要なのが、コストの「増え方」を把握することです。多くの企業では、 「いつの間にかライセンスが増えている」「なぜ総額が増えているのか分からない」といった状態に陥りがちです。
その原因を明らかにするため、可能な範囲で直近2〜3年分の追加購入データを収集し、 以下のようなトレンドを分析します。
- 追加購入がどの程度発生しているのか
- 総費用は増加傾向なのか、横ばいなのか
この分析によって、「成長に伴う健全な投資なのか」あるいは「利用実態を把握しきれないまま増え続けているのか」 といったROI評価の前提条件が見えてきます。
ステップ3:設計と生産のカテゴリーで費用を分解する
最後に、算出したコストを機能的なカテゴリーに分類します。近年は、CAD/CAEだけでなく、 PLMやBOMといったシステムが生産系システムと密接に連携するケースが増えています。 この背景を踏まえ、費用全体を大きく次の2つに分けることが必要かもしれません。
- Designing(設計)
- Manufacturing(生産)
分類の過程では曖昧な部分も出てきますが、細部にこだわりすぎず「大枠で線を引く」ことで話を進めます。 この切り分けによって、ROIの議論(投資に見合う成果が出ているか)の土台が整ってくるのではないでしょうか。
コスト可視化は「削減」のためではなく「ROI最大化」のため
ここで重要なのは、コスト可視化の目的が単なる削減ではないという点です。 本当に価値を生んでいる投資は守り、効果が見えにくい部分は改善・最適化する。 その判断を行うために、コスト × 利用実態 × 業務成果を結びつけて考える土台として、 今回の3段階分析は非常に有効になるわけです。
エンジニアリングアプリケーションを「高いから削る」のではなく、 ROIの視点で“活かす投資”へと変えていく。その第一歩が、コストの正しい可視化なのです。

