エンジニアリングソフトウェア利用の内側―「起動中」と「活用中」のあいだ
CAD・CAEなどのエンジニアリングソフトウェアでは、「ライセンスは利用中」と表示されているのに、エンジニアの仕事が進んでいないことがあります。
使いたい人は空きを待っている。その一方で、別の端末ではアプリケーションが開いたままになっている。CAEジョブはライセンスを確保したものの、計算資源や入力データを待って止まっている。
このとき損をしているのは、最初にライセンス費用ではありません。必要なときに使えず、待ち時間や遠回りを負わされているユーザーです。
ライセンスログ上の「利用中」と、ユーザーが価値を生み出している「活用中」は、本当に同じなのでしょうか。
ユーザーがソフトウェアを使うのではなく、ライセンスに仕事を合わせる
本来、ソフトウェアは設計や解析を進めるための道具です。しかし現場によっては、「午前中は混むから午後に使う」「誰かが終了するまで別作業をする」「確保できたライセンスを手放すと次に使えないので、起動したままにする」といった行動が起きます。
つまり、ユーザーがソフトウェアを使っているのではなく、ライセンスの都合にユーザーが仕事を合わせているのです。
これを単に「ライセンスが足りない」と捉えると、追加購入だけが解決策になります。反対に平均利用率だけを見て「余っている」と判断すると、本当に必要なピーク時間帯の可用性を損なうおそれがあります。
ライセンスログが測るのは「占有時間」
一般的なライセンスログから分かるのは、誰が、いつ、どの機能をチェックアウトし、いつ返却したかという情報です。これは重要ですが、多くの場合、測っているのは価値創出時間ではなく占有時間です。
例えば、次の状態はすべてログ上では「利用中」に見えることがあります。
- 設計・解析を進めて価値を生んでいる
- 設計方針を検討している、または正常な計算完了を待っている
- 入力データや計算資源がそろわず待機している
- 会議や退席中もアプリケーションを開いたままにしている
同じ「利用中」でも、その内側はまったく違います。
「使われていない」には3種類ある
1.未割当・未起動
Named Userライセンスが誰にも割り当てられていない、または割り当てられていても長期間一度も起動されていない状態です。一般に「shelfware(棚に置かれたままのソフトウェア)」と呼ばれる、比較的見つけやすい未活用です。
2.保有数に対して同時利用されていない
例えばフローティングライセンスを100本保有していて、ピーク時でも30本しか使われていない状態です。ただし、平均利用率だけを見て70本を不要と判断してはいけません。曜日、設計工程、繁忙期、利用拒否、待ち時間などを併せて評価する必要があります。
3.チェックアウト中だが実作業していない
CADを開いたまま会議に出ている、作業終了後も終了し忘れている、CAEジョブが計算資源待ちやエラーで止まっている、といった状態です。通常のライセンスログだけでは、実作業と待機を区別しにくい領域です。
「操作がない=無駄」ではない
ここで注意したいのは、マウスやキーボードの操作がない時間を、すべて無駄とみなしてはいけないことです。
設計案を考える時間、解析結果を読み解く時間、正常な計算完了を待つ時間は、価値を生むために必要です。ユーザー監視のように「動いていない時間」を責めても、現場の生産性は上がりません。
見るべきなのは、次の違いです。
- 価値を生む利用:設計、解析、検証など
- 必要な非操作:検討、判断、正常な計算待ちなど
- 回避可能な待機:データ入力、承認、計算資源、手作業などの待ち
- 放置・占有:終了忘れや長時間の開きっぱなし
目的はユーザーを監視することではありません。ユーザーを待たせている構造を見つけることです。
利用率が低い原因は「過剰保有」とは限らない
ライセンスが十分に使われていない理由には、部署や拠点間の偏在、教育不足、必要機能の不足、データ準備の遅れ、手作業の多さ、CPU・GPUなど計算資源の不足、ジョブの投入方法など、さまざまな原因があります。
原因を確認せずに契約だけを減らせば、ユーザーの待ち時間を増やす可能性があります。一方、運用や共有方法を改善せずに追加購入だけを続けても、同じ問題が残ります。
場合によっては、データに基づいてライセンスを追加することが、最も合理的な判断です。重要なのは、削減か追加かを先に決めるのではなく、ユーザーが必要なときに使える状態をつくることです。
研究でも「拒否」と「未活用」は同時に扱われている
ソフトウェアライセンスの適正化は、単純な平均利用率の問題ではありません。Kogan、Perlman、Kelnerによる2023年の研究では、実際のMATLAB利用データを用い、アクセス拒否とライセンスの過少利用を同時に最適化しています。
また、Murtojärviらは利用要求、利用時間、アクセス拒否確率から適正ライセンス数をモデル化しています。CAEでは、ライセンスだけでなく計算資源もジョブ実行の制約になります。
現場で必要なのは、「余っているか、足りないか」という二択ではなく、待たせないことと遊ばせないことを両立させる判断です。
iTractionが可視化するのは、価値を生まない時間の場所と原因
iTraction株式会社は、ライセンスログだけを見るのではなく、利用者、アプリケーション、機能、CPU・GPU、CAEジョブ、時間帯、部署、契約、業務プロセスを横断して分析します。
主な支援内容は次のとおりです。
- 未割当・長期未使用ライセンスの可視化
- ピーク利用と平均利用の分析
- 利用拒否・待ち時間の把握
- 長時間占有、放置の可能性がある利用の特定
- 部署・拠点間のライセンス偏在分析
- Named UserとFloatingの構成見直し
- CAEジョブと計算資源を含めた運用改善
- 契約更新やベンダー交渉に使えるデータの整備
第一の目的は、コストを先に削ることではありません。ユーザーが損をしない環境をつくることです。その結果として、ライセンスの有効利用とソフトウェア投資の合理化につなげます。
「ライセンスを保有している状態」から、「ユーザーが価値を生み出せる状態」へ。
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「ライセンスは足りないはずなのに、待ち時間が減らない」「利用率は低いが、削減すると現場から反発される」「ライセンスログはあるが、改善に結びつけられていない」といった課題があれば、まず事実を整理するところから始められます。
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